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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)60号 判決

原告 阪和工材株式会社

被告 大生産業株式会社

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、別紙物件目録記載のステンレス鋼板を輸入し、製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。

二  被告は、前項記載のステンレス鋼板を廃棄せよ。

三  被告は原告に対し、金一〇三五万四五〇〇円及びこれに対する平成六年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  仮執行の宣言

第二事案の概要

一  当事者に争いのない事実

1  原告の意匠権

原告は次の意匠権を有している(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)。

出願日     平成二年五月三〇日

登録日     平成五年五月一八日

登録番号    第八七四八〇一号

意匠に係る物品 金属板

意匠に係る物品の説明 本物品は、表面にエッチングにより花模様を形成した金属板であり、例えばバスルームやダンプカー等の外壁装飾材として使用するものである。

登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり

2  本件登録意匠の構成

別紙意匠公報の図面代用写真のとおり、花芯側に火花形の模様を有する桃形のほぼ同じ大きさの四枚の花びらが放射状に四方へ広がるとともに、花芯部に二個、三個、四個又は五個の実を表す小さな円形模様を有する複数個の花を、不規則な間隔及び方向をもって三層の積み重ね状に配列して成る花模様が、四方に連続する意匠である。

この意匠は、正面図において四方に連続する。図面代用写真に表した部分の大きさは、縦二九センチメートル、横二一センチメートルである。底面図は平面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。

金属板の地は鏡面又は準鏡面であり、花びら部分を鏡面又は準鏡面(凸面)にし、花の輪郭や花芯部をエッチングによってナシ地面(凹面)にしている。

3  被告の行為

被告は、別紙物件目録記載のステンレス鋼板(以下「イ号物件」といい、その意匠を「イ号意匠」という。)を業として定尺のまま又は適宜の大きさに切断して販売し、販売のために展示している(なお、原告は、当初、被告はイ号物件を「製造」販売していると主張したが、後に、黙示的に撤回した。)。

イ号物件は、表面にエッチングにより花模様を形成したステンレス鋼板である。

定尺のものの外形寸法は、縦四尺(一二一九ミリメートル)、横八尺(二四三八ミリメートル)で、厚さは〇・六ミリメートルである。

エッチングの深さは約一〇マイクロメートル(〇・〇一ミリメートル)である。

4  イ号意匠の構成

別紙物件目録の写真のとおり、花芯側に火花形の模様を有する桃形のほぼ同じ大きさの四枚の花びらが放射状に四方へ広がるとともに、花芯部に二個、三個、四個又は五個の実を表す小さな円形模様を有する複数個の花を、不規則な間隔及び方向をもって三層の積み重ね状に配列して成る花模様が、四方に連続する意匠である。

金属板の地は鏡面又は準鏡面であり、花びら部分を鏡面又は準鏡面(凸面)にし、花の輪郭や花芯部をエッチングによってナシ地面(凹面)にしている。

5  本件登録意匠とイ号意匠の対比

(一) 意匠に係る物品の対比

両意匠とも、意匠に係る物品が表面にエッチングにより花模様を形成した金属板である点において同一である。

(二) 意匠の対比

両意匠とも、花芯側に火花形の模様を有する桃形のほぼ同じ大きさの四枚の花びらが放射状に四方へ広がるとともに、花芯部に二個、三個、四個又は五個の実を表す小さな円形模様を有する複数個の花を、不規則な間隔及び方向をもって三層の積み重ね状に配列して成る花模様が、四方に連続する意匠である点で同一である。

また、両意匠とも、金属板の地は鏡面又は準鏡面であり、花びら部分を鏡面又は準鏡面(凸面)にし、花の輪郭や花芯部をエッチングによってナシ地面(凹面)にしている点で同一である。

(三) 結論

したがって、イ号意匠は本件登録意匠と同一ないし類似するものである。

二  原告の請求と被告の抗弁

原告は、被告の行為は本件意匠権を侵害するものであると主張し、かつ、現在被告はイ号物件を台湾から「輸入して」販売しており、また、自ら「製造して」販売するおそれがあると主張して、意匠法三七条に基づき、イ号物件の輸入、製造、販売及び販売のための展示の停止並びにイ号物件の廃棄を請求するとともに、被告の行為により原告の被った損害の賠償として、金一〇三五万四五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年一月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求。

被告は、イ号物件を台湾から輸入しているとの事実を否認するとともに、本件登録意匠は原告による意匠登録出願前に公知となっていた意匠と酷似しており、その意匠登録には無効事由がある、被告は本件意匠権につき意匠法二九条所定の先使用による通常実施権(以下「先使用権」という。)を有する、と主張して争うものである。

三  争点

1  本件登録意匠は原告による意匠登録出願前に公知となっており、その意匠登録には無効事由があるか。

2  被告は本件意匠権につき先使用権を有するか。

3  被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(本件登録意匠は原告による意匠登録出願前に公知となっており、その意匠登録には無効事由があるか)

【被告の主張】

本件登録意匠は原告による意匠登録出願前に公知となっていた意匠と酷似しており、その意匠登録には無効事由があるから、本件意匠権の権利範囲は、本件登録意匠と同一のものに限定され、本件登録意匠と同一とはいえないイ号物件には及ばない。

1 本件登録意匠の要部について

(一) 本件登録意匠は、「ブーゲンビリア」という名称の花模様(以下「ブーゲンビリア模様」という。)をその構成要素としているが、次のとおりに表現することができる。

花芯部に二個~五個の小さな略円形模様によって表現される実の部分を有し、該実の部位を略中心として、四枚の花弁がそれぞれ中心部から外側に向って中途段階において最大幅を有し、かつ先端においてやや先鋭形状を呈するような略桃形状を成して放射状に広がり、各花弁においては、該実を表す中心部から花弁の広がった方向に沿って、白線の火花模様が形成されているブーゲンビリアの花模様単位が不規則な間隔及び方向によって配列され、相隣り合うブーゲンビリアの花が一層~三層の積層状態となっている花模様が、四方に順次連続した状態となっていることによる意匠。

これを分説すると次のとおりである。

〈1〉 左記のようなブーゲンビリアの花模様単位がランダムな間隔及び方向によって配列されている。

a 花芯部に二個~五個の小さな略円形模様によって表現される実の部分を有している。

b 該実の部位を略中心として、四枚の花弁がそれぞれ中心部から外側に向って中途段階において最大幅を有し、かつ先端においてやや先鋭形状を呈するような略桃形状を成して放射状に広がっている。

c 各花弁においては、該実を表す中心部から花弁の広がった方向に沿って、白線の火花模様が形成されているブーゲンビリアの花模様単位が不規則な間隔及び方向によって配列されている。

〈2〉 相隣り合うブーゲンビリアの花が一層~三層の積層状態となっている花模様が、四方に順次連続した状態となっている。

(二) 本件登録意匠の要部は、右(一)の構成〈1〉のとおりの花模様単位が、構成〈2〉のように配列されている点にある。

2 本件登録意匠と酷似する意匠が本件登録意匠の意匠登録出願前から公然と知られていたことについて

本件登録意匠の意匠登録出願がされた平成二年五月三〇日より前から、幾多のトラック部品業者が、本件登録意匠の構成(前記1(一)の〈1〉〈2〉)を具えこれと同一であるか酷似するブーゲンビリア模様を付した鋼板をトラック部品として販売しており、これに基づき原告ら鋼板の製造業者は、ブーゲンビリア模様を付した鋼板の製造販売を公然と行っていた。

その詳細は以下のとおりである。

(一) 公然と頒布された刊行物の記載に基づく公知性

(1)  本件登録意匠の意匠登録出願前に公然と頒布された雑誌「カミオン」平成元年二月号・四月号・八月号・一〇月号・一二月号・平成二年一月号・四月号(株式会社芸文社発行。乙第一ないし第七号証)には、別紙一覧表記載のように、有限会社鹿島オリヂナル、オン株式会社、株式会社ダイトー、株式会社ベンハー、岡崎ドライブ用品等が、ブーゲンビリア模様を有するフロントバイザー、ベッド窓、スクリーン、シートキャリヤー等の貨物乗用車(トラック)部品の広告を行っている。

例えば、乙第一ないし第七号証のすべてにおいて、有限会社鹿島オリヂナルの広告欄の「サイド〈4〉」に、本件登録意匠と酷似するブーゲンビリア模様によるフロントバイザーが掲載されている(右模様を仔細に検討すれば、本件登録意匠の構成〈1〉〈2〉を具えていることが認められる。)。

乙第七号証の株式会社ベンハーの広告欄右上のトラックの窓部分にも、本件登録意匠と酷似するブーゲンビリア模様が掲載されている。

右各広告のトラック部品に付されたブーゲンビリア模様は、「意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠」(意匠法三条一項二号)に該当し、本件登録意匠は、これに類似(酷似)する意匠であるから、同項三号に該当するものである。

(2)  原告は、ブーゲンビリアの花弁は三枚であって、本件登録意匠の花模様のように四枚の花弁を有するブーゲンビリアの花は存在しないと主張するが、乙第二七号証の2(「カミオン」平成五年九月号掲載の有限会社鹿島オリヂナルの広告)においては、イ号物件の花模様について「エッチングブーゲン」と表示され、これは明らかにブーゲンビリア模様を指す表現であるにもかかわらず、四枚の花弁のものが示されている。乙第一ないし第七号証の有限会社鹿島オリヂナルの広告欄における「サイド〈4〉」においても、乙第二七号証の2と同様イ号物件のブーゲンビリア模様が表示されているが、これも四枚の花弁のものが示されている。したがって、少なくとも有限会社鹿島オリヂナルにおいては、イ号物件に付された四枚の花弁を有する花からなる模様(イ号意匠)を「ブーゲンビリア」又は「エッチングブーゲン」などと表現していることは間違いない。乙第一ないし第三号証、第五、第六号証において、「ブーゲンビリア」の名称によりトラック部品の広告をしているオン株式会社も、右名称による花模様が四枚の花弁を有する花からなることを明らかにしている(乙第九号証)。

そして、自動車部品業界には、これ以外の、例えば三枚の花弁を有する花からなる「ブーゲンビリア模様」は存在しないのである。

そうすると、自動車部品業界においては、自然の植物たるブーゲンビリアではなく(したがってその花弁が三枚であるか否かを問わず)、イ号物件に付された四枚の花弁を有する花からなる模様を「ブーゲンビリア」と表現し、これを通称として用いているのである。

(3)  原告は、「ブーゲンビリヤ」なる標章は原告の登録商標(登録第二四四五七六四号)であって、平成二年五月頃からエッチングによって花模様を付したステンレス鋼板について広く使用されており、正当な権原のない第三者が右標章を無断で化粧用鋼板の広告に使用することはできないなどと主張するが、原告が右のような商標権を有しているか否かと、イ号物件の模様(イ号意匠)が「ブーゲンビリア模様」という通称を有するか否かは、全く別問題である。

ましてや、乙第一ないし第七号証における広告は、原告による右登録商標の出願日(平成二年五月二九日)よりも前に行われており、しかもこのような広告に基づき、有限会社鹿島オリヂナル等は、「ブーゲンビリア」という標章につき商標法三二条所定の先使用による通常使用権を取得している以上、原告の右主張自体成立しない。

原告自身、本件登録意匠の出願前から本件登録意匠と同一模様の鋼板の製造販売を行っており、これについて「ブーゲンビリア」の名称を用いていたが故に前記の商標登録の申請に及んだはずである。甲第二六号証添付の原告・浪速ステンレス工業株式会社間の平成二年九月一二日付契約書において、原告は、浪速ステンレス工業株式会社が製造販売していたイ号物件を、同社とともに「ブーゲンビリヤエッチング板」と命名しているのである。

なお、乙第一ないし第七号証の雑誌「カミオン」に「ブーゲンビリア」の名称が頻繁に登場する事実に照らせば、原告の右登録商標は、本来同法四条一項一〇号に規定する「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品について使用をするもの」に該当する疑いが濃厚であり、しかも、イ号物件のようにブーゲンビリアの花を彷彿とさせる鋼板に使用される場合には、同法三条一項三号の「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当し、ブーゲンビリア模様以外の花模様に使用される場合には、同法四条一項一六号の「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当する疑いが濃厚である。

(二) 公然たる販売に基づく公知性

(1)  前記各広告を行ったトラック部品業者は、そのころ公然と本件登録意匠と酷似するブーゲンビリア模様を付した前記各トラック部品を販売していた(このうち、有限会社鹿島オリヂナル及びオン株式会社は、左記のとおり被告の販売したブーゲンビリア模様を付した鋼板を素材とするトラック部品を販売したのである。)。

また、被告は、昭和六二年一一月以降、平成二年二月に至るまで、原告の製造にかかるブーゲンビリア模様を付した鋼板(イ号物件)を、日本ボデーパーツ工業株式会社を販売元として、有限会社高崎車輛部品、有限会社小倉鈑金及び有限会社ヤマカから仕入れ、これをいすゞ部品茨城販売株式会社、オン株式会社、有限会社鹿島オリヂナル、有限会社ヤマカ、日本ステンレス精工株式会社、株式会社久永洋行、セット部品工業株式会社、有限会社小倉鈑金、大泉産業こと須賀亮、熱田工業こと金子一夫、有限会社前田ボデー工業及び株式会社上野車輛などに公然と販売してきた。被告は、その後、平成二年三月頃から同年九月まで、田所テック株式会社を介して、浪速ステンレス工業株式会社製造に係るブーゲンビリア模様を付した鋼板(イ号物件)を購入して販売した(乙第八号証の1・2、第九号証、第一二号証の1・2、第一三号証の1・2、第一四ないし第二六号証。甲第二六号証添付の原告・浪速ステンレス工業株式会社間の平成二年九月一二日付契約書には、「浪速ステンレス工業株式会社は、同社が現在製造をし、かつ販売をしているブーゲンビリヤエッチング板の製造及び販売を即時に中止する。」と定められており、同社が同日までイ号物件を製造販売していたことを裏付けている。なお、被告は、同年一一月頃からは、他の業者からイ号物件を仕入れている。)。そのイ号物件の模様は昭和六二年一一月以降今日まで何ら変わっていない。

そうすると、ブーゲンビリア模様を付したトラック部品は、原告自身及び浪速ステンレス工業株式会社を製造元として、本件登録意匠の意匠登録出願前に既に公然と販売されており(もし、原告がこの事実を否定するのであれば、原告が出願前に自ら製造し、日本ボデーパーツ工業株式会社を販売元として販売していた花模様付ステンレス鋼板の模様がいかなるものであるかを明らかにすべきである。)、「意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠」(意匠法三条一項一号)に該当し、本件登録意匠はこれに類似(酷似)する意匠であるから、同項三号に該当するものである。

(2)  原告は、乙第一ないし第七号証に掲載されている部品「サイド〈4〉」の広告は、いずれも不鮮明であり、そのため、右部品に付されている模様の構成を把握することはほとんど不可能である旨主張するが、仮にその模様の細部が必ずしも明瞭でないとしても、何らかの花模様単位が一層~三層の積層状態になっている花模様が四方に連続していることは十分窺い知ることができ、これに乙第八、第一二号証の各1の証明書を一体として組み合わせて考察すれば、有限会社鹿島オリヂナルが本件登録意匠の構成〈1〉〈2〉を具えた模様の鋼板を公然と販売したことを認定することは十分可能である。

(3)  原告は、乙第八号証の1、第九号証、第一〇、第一二、第一三号証の各1、第一四ないし第二六号証に添付されているコピーは、約五年前に販売又は使用されていた鋼板そのものの図柄のコピーではなく、被告が現在販売しているイ号物件の図柄のコピーである旨主張するが、イ号物件の模様(イ号意匠)は、本件登録意匠の意匠登録出願前から今日に至るまで何ら変遷していない以上、右各乙号証におけるイ号物件の図柄のコピーが、即本件登録意匠の出願前に右各乙号証の作成者が販売又は使用していた鋼板の図柄を表すのは当然の理である(これらの作成者も被告も、本件のような紛争が生じることは知る由もないから、当時の鋼板を保存していない。)。イ号物件の模様(イ号意匠)は、原告又は浪速ステンレス工業株式会社が「ブーゲンビリア模様を有する」鋼板の製造のために使用していた金型と同一模様又は酷似する模様を形成しうる金型に由来している以上、今日に至るまで、本件登録意匠の意匠登録出願前から右各乙号証作成者の販売又は使用していた鋼板の図柄と変わるわけがない。

(4)  原告は、本件登録意匠のオリジナルの金型とイ号物件のオリジナルの金型とは明らかに異なるものであると主張する。

しかしながら、本件において問題とすべきは、本件登録意匠と同一又は酷似する模様を表す鋼板を製造する金型が、本件登録意匠の意匠登録出願前に存在し、これに基づいてブーゲンビリア模様を付した鋼板が公然と販売されていたという事実であるから、右主張は無意味という外はない。本件登録意匠の模様は、イ号物件の四本の接続線の範囲内の区画を範囲とするのであって、その範囲の模様がイ号物件の模様と同一又は酷似するのである。

(三) 公然使用に基づく公知性

乙第五号証(雑誌「カミオン」平成元年一二月号)によれば、あるトラック運転手がいすゞ八一〇スーパータイプのトラックを改造してフロントバンパー、サイドバンパー等にブーゲンビリア模様を付し、同トラックを「明昇丸」と呼んで公然と使用していたこと、その改造はカーショップ・オン(前記オン株式会社のこと)において行われたことが分かる。その写真では花模様の細部は必ずしも鮮明でないとしても、オン株式会社は、別紙一覧表に示すように、ブーゲンビリア模様を付したトラック部品を取り扱っている旨の広告を雑誌「カミオン」に掲載しており、現に被告から昭和六三年五月から平成元年四月にかけて合計八五枚のブーゲンビリア模様を付した鋼板(イ号物件)を購入しているのである(乙第九号証)から、右乙第五号証にいうブーゲンビリア模様が本件登録意匠と酷似する乙第九号証掲載のものを指すことは間違いない。

また、乙第一〇号証の1・2、第一一号証の1~3(「カミオン」平成二年四月号)によれば、あるトラック運転手がトラックの荷台のサイド及びあおりの裏面等にブーゲンビリア模様を付し、同トラックを「舞花丸」と呼んで公然と使用していたことが分かる。

そうすると、ブーゲンビリア模様を付したトラック部品は、乙第五号証が発行された平成元年一二月より前に既に公然と使用されており、「意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠」(意匠法三条一項一号)に該当し、本件登録意匠はこれに類似(酷似)する意匠であるから、同項三号に該当するものである。

3 無効事由を有する本件意匠権の権利範囲について

(一) 右2記載の事情によれば、本件登録意匠の意匠登録には、意匠法三条一項三号、四八条一項一号の明白な無効事由があることになる。

一般に特許・実用新案登録が全部公知又は明白な進歩性の欠如により無効事由を有している場合、その権利範囲が実施例に限定解釈されることは実務上定着している。これは、特許又は実用新案登録に明白な無効事由があるとしても、現状において特許権又は実用新案権が有効に存在していることを無視することができないことから、これらの権利を最小限度の範囲に限定解釈する必要があるという実務上の要請に由来している。

したがって、その意匠登録に明白な無効事由がある本件登録意匠について、現状では無効審決が確定していない点を考慮して、その権利範囲は最小限度のものとして解することが必要であり、すなわち、本件登録意匠と同一の意匠にのみその権利範囲が及ぶものと解しなければならない。けだし、本件登録意匠と類似する意匠の範囲というのは抽象的であって、その領域を明確にすることができない以上、本件意匠権の権利範囲を可能な限り限定するには、必然的に、その権利範囲を本件登録意匠と同一のものとせざるを得ないからである。

(二) しかるに、イ号意匠は、本件登録意匠とは部分的に個別の模様において酷似してはいるが、模様が形成されている範囲において相違しており、全く同一というわけではない。

したがって、本件意匠権の権利範囲はイ号意匠に及ばない。

【原告の主張】

1 本件登録意匠が原告による意匠登録出願前に公知となっていた意匠と酷似しており、その意匠登録には無効事由があるとの主張は、すべて争う。

(一) 公然と頒布された刊行物の記載に基づく公知性の主張について

(1)  乙第一ないし第七号証の有限会社鹿島オリヂナルの広告欄の「サイド〈4〉」は、いずれもフロントバイザーの「サイド」に取り付ける部品に関するものであり、被告の主張するようにフロントバイザーそれ自体ではない。

また、乙第一ないし第七号証に掲載されている部品「サイド〈4〉」の広告は、いずれも不鮮明であり、そのため、右部品に付されている模様の構成を把握することはほとんど不可能であり、したがって、そこから花模様を知得すること、ましてや本件登録意匠の模様を知得することは、意匠にかかる物品そのものが全く異なることとも相俟って、当業者といえども全く不可能である。

乙第二七号証の2(「カミオン」平成五年九月号掲載の有限会社鹿島オリヂナルの広告)は、イ号物件を用いて製作したものであるから、その模様がイ号意匠と同一になるのは当然のことであり、したがって、右乙第二七号証の2によって、乙第一ないし第七号証掲載の部品「サイド〈4〉」の模様が本件登録意匠と酷似するものであるとすることはできない。

(2)  同様に、乙第一ないし第三号証、第五、第六号証に掲載されているオン株式会社の広告には、ブーゲンビリアと記載されているが、いずれも木工式の「シートキャリヤ」であって本件登録意匠に係る物品とは異なり、しかもその模様はいずれも不鮮明であって、構成を明確に把握することができない。

被告は、広告の中に「ブーゲンビリア」なる文字が記載されていることから、当該物品には本件登録意匠と同一又は酷似する模様が付されていると断定するようであるが、ブーゲンビリアなる記載があっても、必ずしもブーゲンビリアの花がその模様として使用されているとは限らない。また、仮にブーゲンビリアの花の模様が当該物品に使用されているとしても、ブーゲンビリアの花の組合せに係る模様は無数に存在するため、当該物品の模様が本件登録意匠と同一又は酷似する模様であるとはいえない。

(3)  乙第四ないし第七号証に掲載された株式会社ダイトーの広告では、いずれも窓や左下窓等の部品について「ブーゲンビリア柄」なる記載があるだけであり、現実にどのような花の模様が付されているかは全く不明である。

また、右各広告には一緒に「ウロコ」という記載もあるため、左下窓等の部品には魚のウロコが模様として使用されているようにも見え、これらの広告からは、本件登録意匠と同一又は酷似する花模様を知得することは不可能である。

(4)  被告は、乙第七号証の株式会社ベンハーの広告欄右上のトラックの窓部分に本件登録意匠と酷似するブーゲンビリア模様が掲載されていると主張するが、窓部分に付されている模様がどのような構成の模様であるかは全く不明である。被告が右トラックの運転台のフロントガラスの約三分の二の面積を占めている図柄を援用しているのであるとしても、この広告写真から理解することは不可能である。

(5)  本件登録意匠の模様は、不特定の花の形をベースにして独創的に創作された「花模様」であって、被告の主張するようなブーゲンビリアという特定の花をベースとする「ブーゲンビリア模様」ではない。ブーゲンビリアの花弁は三枚であって(甲第二二、第二三号証)、本件登録意匠の花模様のように四枚の花弁を有するブーゲンビリアの花は存在しない。また、ブーゲンビリアの花弁はいずれも一色であり、花弁に火花模様を有するブーゲンビリアは存在しない。

また、ブーゲンビリア模様というだけでは、花柄の組合せは無数に存在するのであるから、本件登録意匠と同一又は類似する意匠であるとはいえない。

(6)  また、「ブーゲンビリヤ」なる標章は、原告の登録商標(登録第二四四五七六四号)であって(甲第二五号証の1・2)、平成二年五月頃からエッチングによって花模様を付したステンレス鋼板について広く使用されており、正当な権原のない第三者が右標章を無断で化粧用鋼板の広告に使用することはできないものである。すなわち、トラック等の装飾用部品の業界においては、「ブーゲンビリヤ」なる標章は、原告が製造し、日本ボデーパーツ工業株式会社が販売する花模様付ステンレス鋼板の商標として広く知られているものであり、イ号物件の花模様を指し示す通称として一般的に使用されているものではない。したがって、雑誌「カミオン」において、鹿島オリヂナル有限会社等が「ブーゲンビリア」なる標章をトラック部品の広告に使用したからといって、「ブーゲンビリア」をもってイ号物件の模様を指し示す通称であるとすることはできない。

(二) 公然たる販売に基づく公知性の主張について

(1)  乙第八号証の1(有限会社鹿島オリヂナルの証明書)には、同社がトラックのフロントバイザーに使用する鋼板についてブーゲンビリアの模様を用いたものを取り扱っていたことが記載されているが、ブーゲンビリアの花を構成要素とする意匠は無限に存在するから、右鋼板の模様が本件登録意匠と同一又は酷似したものであると断定することはできない。

(2)  また、右乙第八号証の1をはじめ、乙第九号証、第一〇、第一二、第一三号証の各1、第一四ないし第二六号証(いずれも証明書)には、本件登録意匠の意匠登録出願前に、右各乙号証の作成者が販売又は使用していたという鋼板の花模様を表すコピーが添付されているが、右添付のコピーは、約五年前に販売又は使用されていた鋼板そのものの図柄のコピーではなく、被告が現在販売しているイ号物件の図柄のコピー(乙第一〇号証の1を除き裏焼きしたもの)である(甲第三ないし第二一号証)。

(3)  乙第一五ないし第二二号証、第二四ないし第二六号証はいずれも、代表者印がないか、証明者又はその資格が不明かのいずれかに該当するものであり、また、乙第一〇号証の1以下の証明書は、すべて被告においてあらかじめタイプした書面であって、作成名義人自身が記載した文章は全くなく、証明書としての信憑性に乏しい。

(4)  別紙物件目録添付のイ号物件の全体写真からも明らかなように、イ号物件には縦向きに四本の接続線が明確に見え、しかも、その各接続線は若干段違い状になっている。これは、製造用金型を製作するための金型用原版は、花模様を写した複数枚の四角状のフイルム片を接続することにより作られるところ、イ号物件の金型用原版では、右各フィルム片の接続が精度よく行われていないためである。これに対し、本件登録意匠の実施品の金型用原版では、各フイルム片の接続が精度よく行われているため、右金型用原版に基づいて製作した金型を用いて製造した本件登録意匠の実施品には、イ号物件に見られるような縦線がほとんど表れない。

したがって、本件登録意匠のオリジナルの金型とイ号物件のオリジナルの金型とは明らかに異なるものであり、後者が前者を複写した模倣品であることは明白である。

(5)  なお、甲第二六号証添付の契約書は、浪速ステンレス工業株式会社が、本件登録意匠の意匠登録出願後に本件登録意匠を模倣してこれに類似するステンレス鋼板を製造販売したことにより、不正競争防止法に抵触するような事態が生じたため、かかる事態を解消することを目的として取り交わされたものである。

(三) 公然使用に基づく公知性の主張について

(1)  乙第五号証の九七頁には「洗車のとき手の届きにくいデッキとかバイザーはステンでやってもらった。ステンも最先端のブーゲンビリア模様を使ったんだ。」と記載されているのであり、フロントバンパーやサイドバンパー等にブーゲンビリアの花模様のステンを使用したとは記載されていない。

また、そこに掲載された写真では、ブーゲンビリアの花模様がどこに付されているのか全く分からず、ましてやその花模様が本件登録意匠と同一又は酷似したものであるかは全く不明である。

(2)  乙第一一号証の1~3には、トラックの荷台のサイド等に本件登録意匠と同一又は類似の模様を有する鋼板が使用されていることを示す記載は、写真を含めて一切ない。

2 仮に、本件登録意匠の意匠登録に出願前公知の無効事由があるとしても、特許庁の無効審決が確定するまでの間は、侵害訴訟を審理する裁判所は、これを有効なものとして扱わねばならない。

また、本件意匠権の権利範囲が本件登録意匠と同一ないし酷似するものに限定されるとの解釈を採用したとしても、イ号意匠は本件登録意匠と同一ないし酷似するものであるから、本件意匠権を侵害することに変わりはない。

二  争点2(被告は本件意匠権につき先使用権を有するか)

【被告の主張】

1 被告は、一【被告の主張】2(二)記載のとおり、本件意匠登録出願を知らずして、これより前の昭和六二年一一月以降イ号物件の製造販売を行っていたから、本件意匠権につき先使用権を有する。

2 原告は、被告はイ号物件を製造していない旨主張する。

しかし、被告のいうイ号物件の「製造」は、既にイ号意匠の付された鋼板を購入し、これを各自動車部品用に適当な大きさに切断することであって、鋼板にイ号意匠を形成することではない。

原告は、被告はイ号物件を製造していない旨主張するものの、本件訴訟の当初、被告はイ号物件を製造しているとしてその差止を請求していたのである。これを合理的に理解するためには、結局、原告のいう「製造」とは、右のような切断の趣旨以外にはないはずである。

しかも、被告においてイ号物件を販売すること自体、本件登録意匠の実施に該当する以上、原告の論難は無意味である。

3 原告は、仮に被告が本件意匠権につき先使用権を有しているとしても、その先使用権の内容はイ号物件の販売だけに限られる旨主張する。

(一) しかしながら、被告の先使用権が認められたことは、必然的に有限会社鹿島オリヂナル及びオン株式会社を介して、イ号物件の自動車部品が本件登録意匠の意匠登録出願前に公然と販売され、本件登録意匠又はこれに類似する意匠が公然と知られていたことを意味している。

したがって、意匠登録出願前に公然と知られ、その登録に無効事由のある本件登録意匠は必然的にその権利範囲が限定されており、このような意匠権に基づいて被告のイ号物件に関する種々の実施行為を制約することはもとより不可能といわなければならない。

(二) 一般に、先使用権は公平の原則に由来するとされている。すなわち、数年前の使用によって、権利を構成する意匠に対する一種の占有状態が認められるものについて、その後の意匠登録によって取得された意匠権のために従来占有されていた意匠の実施を継続することができなくなるとすることは、意匠権者を過剰に保護することになり、著しく公平の観念に反することを根拠として、先使用権が規定されているのである。

このような先使用権の立法趣旨に照らすならば、先使用における実施態様の変更が認められるか否かは、公平の原則に従って、意匠権者と先使用権者との具体的な事情に即して判断すべきである。

例えば、従来譲渡のみを行っていた先使用権者が、後に登録された意匠にかかる物品が市販された後に、先使用にかかる物品の製造を行った場合、当該製造行為は、必ずしも先使用権者には必要ではなく、従来の流通経路によって先使用にかかる物品を確保できるときは、実施態様の変更として許されない場合もありえよう。

しかしながら、従来の流通経路が消滅し、先使用権者において従来の販売を維持するためには自ら先使用にかかる物品を製造する以外に方途がない場合には、当該製造行為は、たとえ実施態様の変更であっても許されるものと解すべきである。けだし、このように解することが公平の原則に適合し、逆に、右のような場合に製造という実施態様を認めないのであれば、先使用権を認めたことが無意味に帰するからである。

(三) これまで被告自身はイ号物件を輸入したことはない(本件登録意匠の意匠登録後にイ号物件を被告に納品した業者は、海外からイ号物件を輸入したかもしれないが、台湾から輸入したものではない。)。

しかし、わが国内におけるイ号物件製造業者によるイ号物件の被告への供給について、原告は、さかんにクレームを述べてイ号物件の供給を中止させ、従来の流通ルートを既に崩壊させている。

このような状況のもとで、被告において自らの先使用権を維持するために、将来やむなくイ号物件を輸入することがあるとしても、前記(二)の製造の場合と同様、当然是認されるべきである。

【原告の主張】

1 被告が本件登録意匠の出願前にイ号物件(本件登録意匠と同一又は酷似する意匠を使用した鋼板)を製造販売していたとの事実は否認し、被告が本件意匠権につき先使用権を有するとの主張は争う。

2 仮に、被告が先使用権を有するとしても、その先使用権の内容は、「日本国内で製造の先使用権を有する者によって適法に製造されたイ号物件の販売」だけに限られるべきであり、イ号物件の輸入、あるいは被告自ら製造したイ号物件の販売までは含まない。

(一) 被告が現在販売しているイ号物件は、台湾から輸入したものであるから、先使用権により適法といえるものではない。

(二) 被告はイ号物件を製造していたと主張するが、本件登録意匠にかかる物品の製造(鋼板へのエッチング)には相当規模の設備機器を必要とするのであり、被告は従業員数四名程度の零細会社でそのような設備を保有していないから、製造していたことはありえない。

乙第一二、第一三号証の各1・2、第一四ないし第二六号証の記載が仮に事実であるとすれば、被告は、本件登録意匠の出願日前にイ号物件を第三者から合計五四二枚購入し、第三者へ合計二九五枚販売したことになる。そうすると、購入数及び販売数からみて、被告は、イ号物件を第三者から購入し、これを転売していたということになり、被告がイ号物件を製造していたものでないことは、被告の主張からも明らかである。

したがって、被告の先使用権はイ号物件の製造には及ばないのであり、右(一)のとおりイ号物件の輸入が許されないとすれば、被告自ら製造するおそれもあるので、原告は輸入の差止をも求めるものである。

三  争点3(被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額)

【原告の主張】

被告は、イ号意匠が本件登録意匠と同一ないし類似するものであることを知りながら又は過失によりこれを知らないで、月間約三〇〇枚販売した。一枚当たりの販売価額は一万八〇〇〇円であり、利益率は二五パーセントを下らないから、一枚当たりの利益は四五〇〇円で、月間の利益は一三五万円となる。

したがって、被告は、平成五年五月一八日から平成六年一月七日までの間(七・六七か月)、イ号物件を販売して一〇三五万四五〇〇円(一三五万円×七・六七か月)の利益を得たものであり、原告はこれと同額の損害を被ったものと推定される。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

第四争点一(本件登録意匠は原告による意匠登録出願前に公知となっており、その意匠登録には無効事由があるか)についての判断

一  まず、イ号意匠が本件登録意匠と同一ないし類似するものであることは当事者間に争いがないところ、別紙物件目録添付の「イ号物件の拡大写真」と「本件意匠登録出願に添付した図面代用写真の拡大」とを対比検討すれば、イ号意匠と本件登録意匠とは、花芯側の火花形の模様等においてごく微細な差異の存することは認められるものの、意匠として同一の範囲内にあるものと評価すべきものである。

二  そこで、以下争点一について判断する。

1  証拠(甲第二六号証、乙第一ないし第七号証、第八号証の1・2、第九号証、第一〇号証の1・2、第一一号証の1~3、第一二、第一三号証の各1・2、第一四ないし第二六号証、第二七号証の1~3、第二八号証の1・2、第二九ないし第三五号証、第三六号証の1~27、第三七号証の1~3、第三九号証の1~22、第四〇号証、第四一号証の1~5、第四二号証の1~8、第四三号証の1・2、第四四号証の1~12、第四五ないし第四八号証、第四九号証の1~4、被告代表者)に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)(1)  被告は、昭和五四年八月の設立当初は、各種自動車部品の販売を業としていたが、その後、鋼板に模様を付して、自動車部品(トラック等の外壁装飾材)として販売する業務を始め、現在はこれを主たる業務としている。

(2)  被告は、右のように模様を付した鋼板として、昭和六二年一一月以前は、ステンレスに多数の砥石を一列に並べて押しつけることにより魚のうろこ模様を付したもののみを製造販売していたが、昭和六二年秋、取引先のいすゞ部品茨城販売株式会社等の中間販売業者や有限会社鹿島オリヂナル、オン株式会社等の自動車部品販売店から、魚のうろこ模様以外の注目を引くデザインの鋼板を求める要請があったので、有限会社高崎車輌部品が取り扱っていた鋼板で、「花芯側に火花形の模様を有する桃形のほぼ同じ大きさの四枚の花びらが放射状に四方へ広がるとともに、花芯部に二個、三個、四個又は五個の実を表す小さな円形模様を有する複数個の花を、不規則な間隔及び方向をもって三層の積み重ね状に配列して成る花模様が四方に連続する意匠であって、金属板の地は鏡面又は準鏡面であり、花びら部分を鏡面又は準鏡面(凸面)にし、花の輪郭や花芯部をエッチングによってナシ地面(凹面)にしたもの」(以下「鋼板A」という。)を仕入れ、これを定尺のまま又は適宜の大きさに切断して中間販売業者や自動車部品販売店に販売することにした。

そして、被告は、鋼板Aを、有限会社高崎車輌部品から、昭和六二年一一月一九日から平成二年二月一七日の間ほとんど毎月のように数枚から二〇枚程度(合計二〇六枚)仕入れた。鋼板Aは、有限会社高崎車輌部品作成の請求内訳書(乙第三六号証の1~27)では、当初は「三〇四エッチングステン花柄」と表示されていたが、その後は単に「ブーゲンビリア」又は「ブーゲン」と表示されている。

被告は、このほかにも、鋼板Aを、有限会社ヤマカから平成二年一月二九日に二〇枚、有限会社小倉鈑金から平成元年二月一七日と同年七月七日に各五〇枚、同年一二月二〇日に四枚仕入れた。これは、有限会社高崎車輌部品において、鋼板Aが品切れになったり品薄になったりすることがあったためである(例えば、昭和六三年一二月一三日には、被告からの受注一〇枚に対し、有限会社高崎車輌部品では八枚しか納入できなかった。乙第三六号証の7)。有限会社ヤマカの請求明細書(乙第三四号証)では、鋼板Aは「ブーゲン」と表示され、有限会社小倉鈑金の請求書(乙第三七号証の1~3)では、鋼板Aは「ブーゲンビリア」と表示されている。

(3)  被告は、平成二年三月頃、田所テック株式会社(現在の商号は「株式会社サステック」)から、浪速ステンレス工業株式会社が鋼板Aと同じ鋼板を製造販売しておりこれがより安価に入手できると聞かされたため、以後、「花芯側に火花形の模様を有する桃形のほぼ同じ大きさの四枚の花びらが放射状に四方へ広がるとともに、花芯部に二個、三個、四個又は五個の実を表す小さな円形模様を有する複数個の花を、不規則な間隔及び方向をもって三層の積み重ね状に配列して成る花模様が四方に連続する意匠であって、金属板の地は鏡面又は準鏡面であり、花びら部分を鏡面又は準鏡面(凸面)にし、花の輪郭や花芯部をエッチングによってナシ地面(凹面)にした意匠」を有する同社製の鋼板(以下「鋼板B」という。その意匠は、鋼板Aの意匠と同一の範囲内にある。)に切り換えることとし、平成二年三月二七日から同年五月二九日までの間に田所テック株式会社から五回にわたって合計一八七枚の鋼板Bを仕入れた。田所テック株式会社の納品書(乙第三五号証)では、鋼板Bは「ブーゲン」と表示されている。

(4)  ところが、平成二年六月頃、原告から、浪速ステンレス工業株式会社に対し鋼板Bを製造販売しないよう申入れがあったため、被告は、鋼板Bを入手することが困難となり、以後は他の業者から浪速ステンレス工業株式会社製以外のイ号意匠を付した鋼板を仕入れるようになり、現在に至っている。

(二) 被告は、右のように昭和六二年一一月一九日から平成二年二月一七日までの間に仕入れた鋼板A及び平成二年三月二七日から同年五月二九日までの間に仕入れた鋼板Bを、本件登録意匠の意匠登録出願日である平成二年五月三〇日以前に、定尺のまま、又はトラック部品に適した大きさに切断して、中間販売業者や自動車部品販売店に販売した。

すなわち、被告は、中間販売業者であるいすゞ部品茨城販売株式会社に対し、昭和六二年一一月二四日から平成二年一月二九日までの間に二二回にわたり合計一七九枚の鋼板Aを販売し、同社は、そのほとんどを同年五月三〇日までに自動車部品販売店である有限会社鹿島オリヂナルに販売し、更に、被告は、平成元年一二月五日、直接右有限会社鹿島オリヂナルに対し四枚の鋼板Aを販売した。被告は、そのほか、自動車部品販売店であるオン株式会社に対し、昭和六三年五月一四日から平成元年四月二五日までの間に一〇回にわたり合計八五枚の鋼板Aを販売し、同様に、有限会社ヤマカに対し平成二年三月二九日から同年五月二五日までの間に五回にわたり合計二二枚の鋼板Bを、日本ステンレス精工株式会社に対し平成元年四月一九日から平成二年一月一七日までの間に六回にわたり合計一四枚の鋼板Aを、平成二年三月二八日に二〇枚の鋼板Bを(但し、鋼板Bは同年四月一〇日に返品された。)、株式会社久永洋行に対し昭和六三年九月二〇日と同年一二月二〇日に各一枚の鋼板Aを、セット部品工業株式会社に対し平成元年八月一日から平成二年二月二四日までの間に九回にわたり合計一九枚の鋼板Aを、同年四月九日、同月二七日、同年五月一八日に合計五枚の鋼板Bを、有限会社小倉鈑金に対し昭和六三年五月一八日に一枚の鋼板Aを、大泉産業こと須賀亮に対し平成元年一二月七日に三枚の鋼板Aを、熱田工業こと金子一夫に対し平成二年四月一二日に四枚の鋼板Bを、有限会社前田ボデー工業に対し平成元年一一月一〇日に六枚の鋼板Aを、塩山タクシー株式会社に対し平成元年九月一一日、同年一〇月一三日、同年一一月二〇日、平成二年三月二二日に合計九枚の鋼板Aを各販売した。

これらの販売先から被告に対する発注書や販売先に対する被告の売上伝票では、鋼板A又は鋼板Bは、「三〇四エッチング」、「三〇四エッチング(花)」と表示されることもあったが、ほとんどの場合、「三〇四エッチング ブーゲン」「三〇四ブーゲンエッチング」、「三〇四ブーゲン」と表示されている。

(三) 一方、右のようにいすゞ部品茨城販売株式会社又は被告から鋼板Aを買い受けた有限会社鹿島オリヂナルは、トラック運転手向けの雑誌「カミオン」の平成元年二月号、四月号、八月号、一〇月号、一二月号、平成二年一月号、四月号に、鋼板Aを使用して製造したフロントバイザーのサイド(側面部品)を「サイド〈4〉」として写真入りで広告し、トラックのディーラー、一般ユーザー、他の自動車部品販売店に少なくとも一五〇枚の「サイド〈4〉」を販売した。

また、オン株式会社は、右「カミオン」の平成元年二月号、四月号、八月号、一二月号、平成二年一月号に、「ブーゲンビリア」の模様を付したシートキャリアを、「STD(ブーゲンビリア)」「DELX(ブーゲンビリア)」の商品名により写真入りで広告した。

このほか、トラック用品製作販売業者のダイトーが、右「カミオン」の平成元年一〇月号、一二月号、平成二年一月号、四月号に「ブーゲンビリア柄」のベッド窓を、岡崎ドライブ用品が、同じく平成二年四月号に「ブーゲン」の模様を付したワイパースポイラーを、それぞれ写真入りで広告した。

(四) 右「カミオン」平成元年一二月号には、栃木方面を走るトラック運転手が、カーショップ・オン(オン株式会社)に依頼して、トラックのデッキやフロントバイザーには「ブーゲンビリア模様」を付したステンレスを使用して改造し、同トラックを「明昇丸」と呼んで使用していることが記載されている。

また、平成元年、二年当時、横浜市在住のトラック運転手が、自己所有のトラックの荷台のサイド及びあおりの裏面に鋼板Aを使用して改造し、同トラックを「舞花丸」と呼んで使用していた。

(五) なお、自動車部品業界では、本件登録意匠の出願前、「ブーゲンビリア」と呼ばれる意匠といえば鋼板A又は鋼板Bの意匠を指し、他には存在しなかった。

2  しかして、証拠(乙第三一ないし第三三号証、被告代表者)によれば、鋼板Aは、原告が製造販売したものであり、前記有限会社高崎車輌部品、有限会社ヤマカ及び有限会社小倉鈑金は、これを日本ボデーパーツ工業株式会社から仕入れて被告に販売したものであることが認められ、有限会社高崎車輌部品、有限会社ヤマカ及び有限会社小倉鈑金は、イ号意匠の図面(コピー)を添付したうえで、イ号意匠のとおりの模様を有する鋼板を被告に販売した旨の証明書(乙第二三、第二四、第二六、第三一、第三二号証)を作成している。また、いすゞ部品茨城販売株式会社、有限会社鹿島オリヂナル、オン株式会社、日本ステンレス精工株式会社、株式会社久永洋行、セット部品工業株式会社、有限会社小倉鈑金、大泉産業こと須賀亮、有限会社前田ボデー工業、塩山タクシー株式会社は、イ号意匠の図面(コピー)を添付したうえで、イ号意匠のとおり模様を有する鋼板を被告から買い受けた旨の証明書(乙第八号証の1、第九号証、第一二、第一三号証の各1、第一五ないし第一九号証、第二一、第二二号証)を作成している。右各証明書にいう有限会社高崎車輌部品等が被告に販売し、いすゞ部品茨城販売株式会社等が被告から買い受けた鋼板とは、鋼板Aにほかならないから、右各証明書には、鋼板Aの意匠はイ号意匠のとおりである旨記載されていることになる。

一方、被告が、日本ボデーパーツ工業株式会社から仕入れた有限会社高崎車輌部品から買い受け、いすゞ部品茨城販売株式会社を通じて又は直接有限会社鹿島オリヂナルに販売し、有限会社鹿島オリヂナルがトラックのディーラー等に販売した原告製造の鋼板Aは、前示のとおり雑誌「カミオン」の平成元年二月号、四月号、八月号、一〇月号、一二月号、平成二年一月号、四月号にフロントバイザーの「サイド〈4〉」として写真入りで広告されているところ(各号ともすべて同じ写真が掲載されている。)、右「サイド〈4〉」すなわち鋼板Aの意匠を本件登録意匠と対比すると、「サイド〈4〉」すなわち鋼板Aにおける個々の花弁の細部は不鮮明であるものの、その花弁の不規則な積み重ね状の配列は、本件登録意匠における花弁の不規則な積み重ね状の配列とぴったり一致することが認められる(念のため、別紙対照図のとおり、意匠公報掲載の正面図を時計の針の方向に九〇度回転させたものを四枚組み合わせたものを図面Iとし、乙第二号証〔右雑誌「カミオン」平成元年四月号〕掲載の「サイド〈4〉」の写真を縦横各二倍に拡大したものを図面IIとして対比したものを末尾に添付する。原告は、右部品「サイド〈4〉」の広告はいずれも不鮮明であり、そのため右部品に付されている模様の構成を把握することはほとんど不可能であるなどと主張するが、失当というほかはない。)。

右のように「サイド〈4〉」すなわち鋼板Aにおける花弁の不規則な積み重ね状の配列が本件登録意匠における花弁の不規則な積み重ね状の配列とぴったり一致するのであり、前記一説示のとおりイ号意匠と本件登録意匠とは同一の範囲内にあるのであるから、このことは、鋼板Aの意匠はイ号意匠のとおりである旨の前記各証明書の記載が真実であることを裏付けるに十分といわなければならない。

したがって、原告は、本件登録意匠の意匠登録出願前に、鋼板A、すなわち本件登録意匠(と同一の範囲内にあるイ号意匠)と同一の意匠を有する鋼板を製造し、日本ボデーパーツ工業株式会社を通じて販売しており、有限会社高崎車輌部品、有限会社ヤマカ及び有限会社小倉鈑金は、右鋼板Aを日本ボデーパーツ工業株式会社から仕入れて被告に販売し、被告は、これをいすゞ部品茨城販売株式会社に販売し、同社はそのほとんどを有限会社鹿島オリヂナルに販売し、更に、被告は、右鋼板Aを直接右有限会社鹿島オリヂナルに販売したほか、オン株式会社、日本ステンレス精工株式会社、株式会社久永洋行、セット部品工業株式会社、有限会社小倉鈑金、大泉産業こと須賀亮、有限会社前田ボデー工業、塩山タクシー株式会社に販売し、また、浪速ステンレス工業株式会社製造の鋼板B、すなわち本件登録意匠と同一の意匠を有する鋼板Aの意匠と同一の範囲内にある意匠の鋼板を田所テック株式会社から仕入れて、これを有限会社ヤマカ、日本ステンレス精工株式会社(但し、後日返品された。)、セット部品工業株式会社、熱田工業こと金子一夫に販売していたということができ、それら鋼板A及び鋼板Bの大部分はその頃右各自動車部品販売店からユーザー等に販売されたものと推認される(このことと、前示のとおり、自動車部品業界では本件登録意匠の出願前、「ブーゲンビリア」と呼ばれる意匠といえば鋼板A又は鋼板Bの意匠を指し、他には存在しなかったことに照らせば、前記1(三)のとおり雑誌「カミオン」で広告された、オン株式会社の「STD(ブーゲンビリア)」「DELX(ブーゲンビリア)」なるシートキャリア、ダイトーの「ブーゲンビリア柄」のベッド窓、岡崎ドライブ用品の「ブーゲン」の模様を付したワイパースポイラー、同(四)の「明昇丸」の「ブーゲンビリア模様」を付したデッキやフロントバイザーも、鋼板Aを使用したものであると推認される。現実の植物であるブーゲンビリアの花弁が原告主張のように三枚であるとしても、右推認を左右するものではない。)。

原告は、「『ブーゲンビリヤ』なる標章は原告の登録商標であって、平成二年五月頃からエッチングによって花模様を付したステンレス鋼板について広く使用されており、正当な権原のない第三者が右標章を無断で化粧用鋼板の広告に使用することはできないものである。すなわち、トラック等の装飾用部品の業界においては『ブーゲンビリヤ』なる標章は、原告が製造し日本ボデーパーツ工業株式会社が販売する花模様付ステンレス鋼板の商標として広く知られているものであり、イ号物件の花模様を指し示す通称として一般的に使用されているものではない。」と主張するものの、右のように原告が製造し日本ボデーパーツ工業株式会社が販売する「花模様付ステンレス鋼板」の意匠がどのようなものであるのか明らかにせず(被告は、平成六年一二月一三日の口頭弁論期日において同日付準備書面に基づき、原告に対し、原告が本件登録意匠に対応する金型に基づくステンレス製鋼板を製造し、日本ボデーパーツ工業株式会社を通じて販売を開始した時期を明らかにするよう釈明を求めたが、原告は、その後口頭弁論終結日を含め三回の口頭弁論期日を経ながら、右求釈明に応じなかった。)、あたかも、「ブーゲンビリヤ」なる標章を使用した本件登録意匠の実施品は平成二年五月頃以降に製造販売しているかのように主張するが、前記認定事実によれば、原告が製造し日本ボデーパーツ工業株式会社が販売する「ブーゲンビリヤ」なる標章を使用した「花模様付ステンレス鋼板」こそ鋼板Aにほかならないのであり、これが本件登録意匠の意匠登録出願前に原告自身によって製造販売されていたものといわざるをえない。

また、原告は、鋼板Aの意匠はイ号意匠のとおりである旨の前記高崎車輌部品等、いすゞ部品茨城販売株式会社等の各証明書について、添付のコピーは約五年前に販売されていた鋼板そのものの図柄のコピーではなく、被告が現在販売しているイ号物件の図柄のコピーであるとして、その信用性を否定するが、被告が取り扱っている鋼板は昭和六二年一一月から現在までその意匠に実質的な変化はなく(被告代表者の供述)、被告が昭和六二年一一月一九日から平成二年二月一七日までの間に仕入れて販売した鋼板Aの意匠は本件登録意匠と同一であり、その後平成二年三月二七日から同年五月二九日までの間に仕入れて販売した鋼板Bの意匠は鋼板Aの意匠と同一の範囲内にあり、その後現在まで販売しているイ号物件の意匠は本件登録意匠と同一の範囲内にあるものと評価すべき意匠であることは前示のとおりであるから、右の点は右各証明書の信用性を左右するものではない。その他、原告が右各証明書は信憑性に乏しいとして主張するところは、いずれも採用できない。

更に、原告は、別紙物件目録添付のイ号物件の全体写真からも明らかなようにイ号物件には縦向きに四本の接続線が明確に見え、しかもその各接続線は若干段違い状になっているのに対し、本件登録意匠の実施品にはイ号物件に見られるような縦線がほとんど表れないとし、したがって、本件登録意匠のオリジナルの金型とイ号物件のオリジナルの金型とは明らかに異なるものである旨主張するが、前示のとおり、現在被告が販売しているイ号物件は、原告が製造し日本ボデーパーツ工業株式会社を通じて販売していた鋼板A(本件登録意匠の実施品)ではなく(なお、浪速ステンレス工業株式会社製造の鋼板Bでもない。)、他の第三者が製造した鋼板である以上、イ号物件の意匠が本件登録意匠の実施品の意匠と(意匠として同一の範囲内にあるものの)完全には一致しないことはむしろ当然のことであり、このことは前記認定に何ら影響するものではない。

3  以上によれば、本件登録意匠の意匠登録出願前に、日本国内において本件登録意匠と同一の意匠(鋼板A及び鋼板Bの意匠)が公然知られていたというべきであるから、本件登録意匠は意匠法三条一項一号所定の意匠に該当し、その意匠登録は同法四八条一項一号所定の無効事由のあることが明白といわなければならない。そして、本件意匠権の意匠登録に単に明白な無効事由が存するというだけではなく、その明白な無効事由が、本件登録意匠の意匠登録出願をした原告自身が、その出願(平成二年五月三〇日)の約二年半前(昭和六二年一一月)から本件登録意匠の実施品というべき意匠からなる鋼板(鋼板A)を製造販売し、これを販売元を通じて中間販売業者、自動車部品販売店、ユーザーの間に流通させていたということにあり、しかも、特許発明や登録実用新案に関する公知技術のようにその評価が各人によって分かれうるというような問題とは異なり、原告が製造販売していた右鋼板Aの意匠が本件登録意匠と同一でありその実施品であることについてはほとんど他の解釈を入れる余地がないものであるから、原告は、本件登録意匠が意匠法三条一項一号所定の意匠に該当し本来意匠登録を受けられないものであることを十二分に知りながら意匠登録出願に及んで意匠登録を受けたものといわざるをえず、かかる事情を参酌すれば、このような本件意匠権に基づいて差止請求をし、その侵害を理由に損害賠償請求をすることは、権利の濫用として許されないものといわなければならない(なお、被告は、「権利濫用」の主張を明示的にしているわけではないが、権利濫用を基礎づける事実が訴訟上顕れている以上、裁判所が原告の権利行使を権利濫用として排斥することは、弁論主義に反するものでない。)。

第五結論

以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 本吉弘行)

別紙一覧表〈省略〉

物件目録

一 物品の種類

表面にエツチングにより花模様を形成したステンレス鋼板である。

定尺のものの外形寸法は、縦四尺(一二一九ミリメートル)、横八尺(二四三八ミリメートル)で、厚さは〇・六ミリメートル又は〇・八ミリメートルである。

エツチングの深さ約一〇マイクロメートル(〇・〇一ミリメートル)である。

二 物品の意匠

次葉添付の写真のとおり

模様

花芯側に火花形の模様を有する桃形のほぼ同じ大きさの四枚の花びらが放射状に四方へ広がると共に、花芯部に二個、三個、四個又は五個の実を表わす小さな円形模様を有する複数個の花を、不規則な間隔及び方向をもって三層の積み重ね状に配列して成る花模様が、四方に連続する意匠である。

ステンレス鋼板の地は鏡面又は準鏡面であり、花びら部分を鏡面又は準鏡面(凸面)にし、花の輪郭や花芯部をエツチングによってナシ地面(凹面)にしている。

図版〈省略〉

意匠公報〈省略〉

図面I、II〈省略〉

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